わたしがあなたに返してほしかったのは

もう終わったことだけれど、わたしは一時期彼に10万円ほど貸していたときがある。


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現金を貸していたわけでなく、生活費をひと月ごとに精算する際、彼の負担額をわたしに返してもらえなかったらいつの間にかその額になっていた。最初は数千円だった。(彼の方から借用書を書いてくれた。あとで調べたら正式な形式だった。彼は大学の入学金を親戚に立て替えてもらい大学に行っていたから、そこで覚えたのだと思う。)

彼は入社当初(試用期間だったからか)給料はわたしより低く、彼の家庭事情(詳しくは書かないけれど、それなりに訳あり)も考えたら、わたしも無理に払ってとは言えなかった。

 

 

 

1年かけてその額まで増えてしまう間に、彼は友人と数回泊まりがけで旅行に行っている(そしてよくわからないお土産を買ってくる)。3万円もするiPhoneケースをわたしに自慢してきている。いつもお酒を飲んでから帰ってきていた。

わたしは、そういうお金はあるのにどうして返してくれないんだろうと困っていた。

 

わたしが返してほしかったのはお金より信頼だったのかもしれない。

 

旅行に行くなとは言わない。お酒を飲むなとも言わない。やたら高いケースを買うなとも言わない。お金が返せないならせめて相談してほしかった。わたしだって奨学金を返済していて、そんなに余裕のある生活ではなかった。わたしはこのままお金を返してもらえないんじゃないかと悩み始めた。だんだん彼を信じられなくなってきていた。

 

今考えると、わたしももっと彼に協力できることがあったと思う。たとえば、生活費をもう少し抑えるように努力するとか、彼に返済計画を相談してみるとか、彼を思いやった行動はできていなかった。自分の不安を一方的にぶつけて、彼を困らせていたかもしれない。

 

それからしばらくして、彼は3月末までに全額を返すと約束してくれた。わたしはようやく安心して彼の旅行を笑顔で見送れるようになった。はじめから期限をもうければよかったなと大いに反省した。

 

しかし、約束した3月を過ぎて、4月になっても彼からはお金をまだ返してもらえていなかった。相談もされていなかったから、やはり返すつもりがないのではと疑いはじめてしまった。そんなふうに疑っている自分が恥ずかしくて、勇気をふりしぼって彼に話そうと決めた。できるだけ落ち着いた口調で、お金を返してほしい旨を伝えた。遅れたことは謝ってくれなかったが、もう一度返すことを約束してくれた。

 

それからゴールデンウィークを目前にしたある日、ようやく彼から貸した全額がわたしに返って来た。借用書はふたりで処分した。このころには、彼を好きな気持ちをどこかになくしてしまっていた気がする。